第18章 美化委員の特権【北信介】
下敷きになる北くんの、耳ら辺まである水位。
水に浮かんでゆらゆら揺れる彼の髪が目に入る。
「ん……」
キスの間に変な声が漏れてもうて、もう恥ずかし死にしそう。
自分の顔が赤くなるのが判ったし、脳みそビジー状態。
彼になんて返せば正解なんやと考えたけど、でも解らなくて。
唇が離れるまでは、やっぱり、揺れる彼の髪を見ていた。
「苗字が……双子の話なんかするからや」
「え、あ……」
「さっきも言うたけど、男を挑発する様な格好もしとるしな」
「っ、挑発なんて……」
「黙っとこて……思とったんに」
背中に腕を回されとる上、もしも誰かに見られたら非常にマズい卑猥な体制。
北くんが喋ると息遣いまで感じられて、低音ボイスの振動が耳にストレートに伝わってくる。
「あ、あの……聴いても、ええ……?」
「なんや?」
「わっ……」
ぎゅっと抱きしめられる。
私の左胸の振動は、彼の右胸に100%伝わってる。
「なんで、私の事……」
北くんは、自分の鼻先を私のにピタッとくっつけた。
「なっ!や、ちょ……!!」
これ以上、ドキドキする事せぇへんで!って、切に思った。
「苗字の、案外ちゃんとしとるとこ好きや。
普段はアホやし、おちゃらけとる様に見えるけどな。
掃除はしっかりするし、責任感やら正義感あるし。美化委員も自らやる言うた」
改めてそないにはっきり『好き』と言われると、めっちゃ恥ずかしい。
「え……そんだけ……?ちゅうか、ちょいちょい気になる言い方せんといてよ!」
「ふふっ……」
あ、また笑った。
笑うと結構いい男なんやって事は、この日十分に理解した。
緊張しきってた私も、彼につられて顔が綻んでもうた。
「えと……じゃあ北くんの言う“好き”て……
“like”の方?“love”の方……?」
答えを聴く前に、また不意打ちの短いキスが下から来る。
「俺にこんな事さしといて……
“like”の方やと思うんか……?」
心臓がきゅっと掴まれたみたいになる。
照りつけてくる太陽の事なんて、とっくに忘れとった。