第18章 美化委員の特権【北信介】
「き、き、北くんて……け、結局は他のアホ男子とおんなじなんやね……!」
とにかくこのままの距離を保つと危険やと思て、私はベンチから立ち上がった。
「フツーにスケベな事言うんやな!それにいきなり、き、き、キスとか……!軽ぅ!!……み、見損なったわっ!!」
言葉では虚勢を張るが、心の中はぐちゃぐちゃで。
口から出るどもった声が、それを証明していた。
「きゅ、休憩終了!!北くんかて早よ掃除終わらせて部活行かなあかんのとちゃうん!!??」
指摘された服装が恥ずかしくて意識が向く。
短く捲り上げた体操着のハーフパンツを元の長さまで下ろしてから、プールへと入るハシゴを降りた。
北くんは『せやな』とだけ言うて涼しい顔。
この男のスルー力が、少しでええから欲しい。
あんだけの事……
乙女の唇を奪うなんて事しときながら……
しかも、実はファーストキスなんやで!?
なんて奴や!!!!
「うわぁ!!この辺、苔取れーーん!!」
デッキブラシでガシガシとプール底を擦りながら、わざとデカい声をあげた。
さっき起きた事も……
自分のアホな無駄口も、全部……
この苔と一緒に、プールの排水口へと流れればええのに───。
「え……?」
急に空が見えた。
今まで嫌という程に目に映ってた、鮮やかな水色のプール底が……
空の、淡い水色になってた───。
「痛ったーー!!!!」
「苗字、大丈夫か?」
空色がスローモーションに見えた直後は、後頭部とおしりが硬いコンクリートに打ち付けられてた。
苔で足を滑らせ後方に倒れたと判ったのは、情けない事に、この衝撃を受けてからやった。
「あかーーん!!びっちょびちょーー!!」
もう泣きそう。
体操着は見事にずぶ濡れ。
「もおーー!!なんて日や!!厄日や!!悪霊退散!!」
「落ち着けや」
「落ち着いてられるかぁーー!!!!北のドアホ!!!!」
「何で俺が怒られとんの?」
怒るわアホ。
アンタの所為でこないに……
こないに、動揺してんねんで……?
「頭、強く打ってへんか?」
プールのハシゴを降りてきた要注意人物は、放心状態のアホに大きな手を差し出した。
この余裕が腹立つねん。