第18章 美化委員の特権【北信介】
「んむっ!ゃ……ん!」
「ん……どれ……」
突然すぎて、不可解すぎて、押し返そうにも力が出ない。
唇が唇に触れられただけでも厄介やのに。
あろう事か北くんは、自分の舌を大きく入れて掻き回して、冷えた粒を探る。
「んんっ……ふ、ゃ……!」
「……ほんまや。冷たくて美味いな」
恥ずかしい声を出したのも束の間、いつの間にか北くんは、私の口内から氷を奪って自分のものにしとった。
間違いなく、私の人生最大のビックリ珍事に認定やった。
驚きと恥ずかしさから、声もろくに出ん。
「ぇ……あ……ぁ、の……き、え……?」
「ふふっ。苗字でもそないに動揺するんやな」
「ぁ、あた……あたり、ま……うっさぃ、わ……?」
ドキドキドキドキ……
心臓……うっさいわ!!!!
「いつも下ろしとる髪が結わえてある」
淡々と喋りだす北くん。
初めは何の事か、よう解らへんかった。
「は、はい???」
「白いうなじがよう見えてドキドキする。それと体操着の半ズボン」
今しがたキスしたばかりの人に、まるで講評しとるかの様な口調で具体的に指し示される。
ベンチの隣に座ったままの距離の近さ、しっかりと目を合わせながら言われとるもんやから、顔から火が出そうやった。
目を逸らそうにも、その程度の顔の筋肉さえ強張っとるみたいに、緊張して動けへん。
「そないに捲っとると、綺麗な太腿に目が行ってまうやろ。俺かて、我慢しとんのやで」
また一段、顔が熱を持った。
これ、暑さの所為やろ。
そう信じたかった。
「苗字の顔、茹でダコみたいに真っ赤っ赤やな」
失礼な事をさらっと言い、北くんは優しく微笑んだ。
正に絶句。
どっから突っ込んで欲しいのか、そもそもこの男に突っ込んで勝ち目はあるんか、とか。
理解が追いつかへん頭を、これが巡るので精一杯やった。