第18章 美化委員の特権【北信介】
私をじっと見ていた北くんも、じきにプールのある正面を向いた。
彼の視線から開放されたのを横目で確認したけど、その後の彼の言葉に思いっきり動揺してまうとは夢にも思わへんかった。
「苗字のそういうとこ、ええと思うで」
午後3時30分の日差しが照りつける。
こめかみから汗がツゥーと流れてきた不快感も忘れる、なんとも言えへん空気が漂う。
「な、何……?おだてても何も出てこーへんよ……?それに、北くんに褒められる様なキャラやないで、私っ……」
なに焦っとるんやろ……。
「ふふっ。本心やて」
「か、からかわんといて」
お腹の奥が、グーッと熱くなる。
ほんで、何で私、緊張しとんのやろ。
何か喋らんとあかんって思った。
内容なんて何でも良くて……
ただ、このドキドキは嘘やったって……
何でも無いんやって……
裏付けられる様な、演出を。
「あ、えと……そうそう!北くんにお願いがあんねん!」
北くんは表情を変えずにこっちを見た。
「今度私に、宮んズの事、紹介してくれへん?」
「何でや?」
一瞬、彼の顔が歪んだ……様な気がした。
「な、何でって……カッコええしお友達になりたいからに決まっとるやろぉ?」
「……そうか」
このまま喋っとると、自ら墓穴を掘りそうや。
私は脇に置いた水筒を手に取って、飲み口の栓を捻って口に流し込んだ。
殆ど残っとらんかった僅かな麦茶と、今朝入れた時よりも小さなった氷が、カランと音を立てて勢い良く落ちてくる。
「あっ!氷、冷たくて美味っ!」
少しでも時間を稼ぎたくて……
少しでも熱を冷ましたくて……
少しでも、彼に気が無いフリをせなあかんと思ったんや。
それなのに……
「……っ!!??」
何で……
北くんは私に……
キスしとんのやろ……?