第18章 美化委員の特権【北信介】
「ぶっ続けでやらされるかと思てたわ」
「俺はそこまで鬼やないわ」
お互いに持参した水筒で飲み物を一口飲む。
今朝入れてきた氷が、ステンレス製のボトルを傾けた時にカランと鳴った。
「なぁ苗字。聴いてもええか?」
「ぅえっ!?な、なに?」
「なんでそないに驚くん?」
急やし……それに、北くんがする質問なんて、想像つかんもん。
「だって……北くんが私に質問て……。小難しい事聴かれても、解らへんで?」
「ははっ。そんなんとちゃうわ」
また北くんが笑ろた。
目を細めて笑ろた顔がめっちゃ新鮮で、無意識に自分の脳裏に焼き付ける様に彼の顔を眺めてもうた。
「苗字は何で、美化委員に立候補したん?」
夏空が背景にある北くんの顔は、いつもよりやたらと爽やかに見えた。
その時一瞬吹いた風が、彼の髪をなびかせた所為もあったかも。
「美化委員て、皆あまりやりたがらんのやろ?」
「……え、うん……」
「苗字は貧乏クジ引いたんと違て、立候補やった。俺もやけど」
「……ん、せやね」
「仲が良い連中とも別々やったしな」
「……うん……」
私は北くんを見てボーッとしてしまった。
見惚れたんとは違う。
それとは違てると思いたい。
そんな私に、テンポ良く言葉を繋げて来る。
この人こないに喋るんやなぁ、って。
そんな様な事をボーッと考えとった。
「……別に特別な理由なんて無いよ。花に水やって元気に育てたいとか、校舎綺麗に使いたい気持ちはみぃんな一緒やろ?」
やっと焦点を取り戻した私は、彼に言うた。
心なしか掃除前よりも、彼に対して優しい口調になっとったのは自分が一番よう判っていた。
「……今のプール掃除は、たった二人でやんのが不満なだけや。体育で全員使うしな」
「せやからなんやかんやで掃除に付き合うてくれとるんやな」
「付き合うとかやない。掃除は皆でやるもんや!」
北くんは目を丸くした。
その目に凝視されるのに耐えられなくなって、私から目を逸らして正面のプールを見た。