第17章 ラブシック・ハイ(後編)【宮治】
「治、名前の事……よろしくな」
「……名前ちゃんは俺が、守りますから」
治くんは一礼すると、私の手を握って廊下を駆け出した。
***
「……北さん、器でかすぎやな」
「せやね」
ロビーのソファに座ってすぐ、治くんが言うた。
夜の2人きりのロビーは静まり返って、治くんの低い声がよう通った。
「俺、名前ちゃんを……初めて見た時から好きやったのかも」
真横に座る治くんの身体が近く感じる。
ナチュラルに「好き」て言うてくれる治くん。
言われる度に、初めて言われたみたいにドキドキする。
「初めて見た時、『足めっちゃ綺麗』て思った」
「足!?恥ずかしいなぁ……」
「初めて話した時、『マジメ天然でおもろい子』て思った」
「ふふっ、ありがとう。長所かは判らんけど」
少しでも動けば治くんに触れてしまいそうな近距離。
彼側の左半身が熱くて、お風呂上がりなのに変な汗が出てきそう。
「見る度“好き”が増えるんや。この髪のええ匂いも……」
治くんは、私の髪の内側に指を通してさらっと流す。
自分の髪が起こした風を頬が感じた。
「皆おんなじの、使てるよ……?」
前にアイス屋さんで、やってくれたやつ。
思い出すとまた一段と照れ臭くなって、顔が自然と綻んでまう。
「このふんわり柔らかい笑顔も」
そのまま髪を触られて優しく頭を撫でながら、治くんは尋ねてきた。
「なぁ……キスしてええ?」
ストレートに聴かれると、これはこれで恥ずかしい。
こくんと頷いて返事をすると、今までで一番、最高に優しくて柔らかい唇が重なる。
「……っ」
「……」
静かに静かに、目を閉じてお互いの唇の柔らかさを確かめ合った。
離れずに、長く重なり続ける唇。
舌を入れた深いものやなくて、お互いが患った“恋の病”を治療する様な慈しみを含んだキス。