第17章 ラブシック・ハイ(後編)【宮治】
「……先生っ!!」
「なっ、なんや!?」
「一瞬、合図出し代わって下さいっ!!」
「あ、え……?」
「早くっ!!」
「は、はい!」
治くんが得点した所。
治くんが高く跳んだ所。
治くんがボールを拾った所。
今日はもう、たくさん見逃してきた。
けど、この瞬間だけは……
自分の目で、観たかった。
自分の音で、応援の気持ちを伝えたかった。
無我夢中で自分のトランペットを準備する。
早く早く……
早く、治くんに届けたい。
サーブ前の8秒間。
治くんはまた、こっちを一瞬見た。
胸の中心が、熱くなる。
この音みたいに、私の気持ちも……
治くんに、届けばええのに。
***
試合は負けてしまったけど、最高の試合を観せてくれたバレー部の皆に感謝の気持ちが溢れた。
それとこの試合を通して、今まで自信の無かった部長の仕事に少し誇りが持てた。
一瞬でも治くんに、自分の音が届けられたから。
やっぱ治くんが好きやなぁって感じながら、温かい宿のお風呂を堪能する。
「名前、それ貸してー」
「うん、ええよ」
流行っているトリートメントの華やかな香りで、更に高まる恋する気持ち。
胸はどんどん熱を高めて、心はフワフワと浮遊する。
いつかは治くんに見合う女の子になりたいな、って考えとったら、約束されたかの様にお風呂前の廊下で本人に遭遇する。
「「あ……」」
偶然の悪戯みたいな、けど、いつもの出会い方。
お互いにお風呂上がりの上気した頬で、顔を見合わせた。
「……名前ちゃん、今日……負けてごめんな」
「なんで?最高の試合やった!めっちゃ楽しかったよ!」
「……俺も、楽しかったは楽しかったけど」
「なら、ええやん!」
数週間前、放課後の教室での事。
あの日以降続いていた気まずさは、全て綺麗に消えとった。
今日の試合のお陰かなって、烏野さんにも感謝した。
「3セット目終盤の治くんがサーブん時、私もトランペット吹いとったの、判った?」
「うん。見てたで」
「治くんのお陰で……私、部長としてちょっと自信ついたよ」
治くんの後ろに見えてる男湯の暖簾から、他のバレー部の人たちが出て来た。
その中に、信介くんの姿もあった。