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【ハイキュー!!】短編集~Mint tea~

第17章 ラブシック・ハイ(後編)【宮治】




***


治くんは、パタリと顔を出さなくなった。

毎日、すぐ隣の教室で過ごす人に、こないに会わないもんかなと思った。


お互いに部活に精を出せたのは、ある意味で良い機会やったとは思う。


頻繁にうちのクラスに遊びに来てくれた時が懐かしく思えたけど、彼を傷付けた償いなんやと我慢した。



私は完全に、治くんに恋しとった。

胸の中にはいつも、治くんがおった。



例え彼が私の事を忘れてしまったとしても。
もう熱が冷めてしまったとしても。


私は治くんの所為で、“治らない風邪”をひいた。





春高本戦の日を迎えて、吹部部長として部員を引っ張らなあかん私は、朝からてんやわんややった。


「名前、チューナーどこ?」
「共用バッグん中になかった?」

「苗字ー、声出しと演奏のタイミングの事なんやけど」
「はーい!今行くね!」


散々準備して備えても、いざ本番を迎えれば、応援団とはいえ皆も私も焦りだす。

夏にIHを経験していても、本番前のこの慌ただしさは容易には慣れへん。



(治くん……私、見とるからね)



スタンドからコートを見下ろせば、ユニフォーム姿の治くんやバレー部の人たち。



「はいっ!」

チアや声出しの人たちとの兼ね合いがあるから、指揮者とは別で演奏開始のタイミングを部員たちに合図する私。

自分のパートの楽器なんて、吹いとる暇が無い。
コートに対して背中を向けとる時間も多いし、視野を広く持ちつつ気も遣う。



「次、侑くんサーブやから“止め”ね!」


1月やっちゅうのに、東京体育館の応援席は暑かった。

あの日、治くんと取りに行った吹部のTシャツに、じんわりと汗が貼り付いた。




「苗字、問題なくやっとるか?」
「あ、先生」

顧問の先生が様子を見に来てくれて、少しの間、集中の糸が切れる。


「大丈夫ですよ。練習通り出来てます」

「おう。それにしてもバレー部、すごいなぁ」

「そうですね」




ピーッという、点を取った時よりも少しだけ長めに吹かれた笛の音が耳に入り、ふとコートに目を移した時やった。


「あっ……」


コート後方には、サーブの番が来た治くんがボールを持って立っとった。



その時、自らの背後にある応援席を一瞬見た治くんと……


多分、目が合った。

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