第17章 ラブシック・ハイ(後編)【宮治】
「……なぁ。最近、なんか怒っとる?」
私は治くんの目を見られずに、首を横に振った。
「俺の事、怖い?」
「……う、ううん。そんな事……」
さっきのキスで、頭の中は真っ白やった。
「ほな、俺の気持ち……受け止められる?」
「……え?」
壁に押し付けられたまま首筋に口付けられる。
「や、やめ……」
「嫌ならもっと抵抗せな……名前ちゃん」
首筋に何度か吸い付かれると、柔らかくて暖かい唇の感触に身震いする。
わざとらしくチュッと音をたてる彼の唇。
右手がお腹の辺りから胸に向かって、ゆっくりと迫ってくる。
治くんは、ここで止める気なんて無い。
「早くせんと俺……止まらへんよ?」
制服の上から、大きな手が柔く胸を揉んだ。
あの時とおんなじ。
信介くんの時と、おんなじ。
あの感覚が、甦ってくる。
また、おんなじになってまう……
また、好きな人を傷付けてまう……
「……やっ、やめて……!」
胸に置かれた治くんの手を、強く振り払った。
拒めばまたおんなじ。
解ってたのに、やっぱり怖かった。
……また、自分の事しか考えてへん。
「……ごめんな、名前ちゃん」
───また、好きな人を傷付けた。
小さく呟いた治くんは、すぐに教室を出ていった。
「……っ、どないしよ……」
今の今までオーバーヒートしそうやった心臓が、強く締め付けられた。
“恋”って、タイミングなんやと思う。
お互いが最高潮に達した時やないと……噛み合わない。
難しいけど、そういうもんで……
治くんが自分の教室に取りに行ったプリントが、近くの机の上でまた忘れられていた。
私はそれを持って、職員室にある日本史の先生の机上に置いた。
プリントの氏名欄に書かれた“宮治”の字も、回答欄の字も、雑すぎて不器用すぎて……
私に触れた、彼のあの大きな手が書いたそれを見て、また胸が痛くなった。