第17章 ラブシック・ハイ(後編)【宮治】
「……っ、治くん……?」
いつもは穏やかな彼の眼差しが、鋭く刺さった。
綺麗な銀髪の隙間から私を見下ろす目は鬼気迫るものがあって、少しだけ怖く感じた。
「……んっ!ふ」
強い力で唇を塞がれる。
目の前の治くんは目を閉じとって、何が起こってるのかすぐには解らなかった。
「ん、んんっ!は……!」
「ん、はぁ……」
壁ドンの体制で私を囲い込み、逃げ場を奪う。
治くんの胸を押しても無駄やった。
鍛えられた全国クラスの運動部選手に、非力な私の力が敵う筈が無い。
「ぁ……んんっ」
唇で唇に噛み付いていた乾いたキスが、徐々に甘くとろみを含んだ濡れたものに変化していく。
くちゅくちゅと唾液が絡み合う音が耳を麻痺させる。
信介くんと一度だけしたキスみたい。
とろけそうな脳で記憶を辿ってみたけど……
執拗に舌を追い回して口内を犯すそのキスは、彼のとは違うものなんやって、少しずつ解る。
「……ん、ん、くちゅっ……はっ、ぁ」
「ん……名前ちゃん……」
息継ぎした治くんが私を呼ぶと、いつもより低くて甘い声にゾクゾクする。
「んぁ……ちょ……」
「はっ……キス顔、最高やん」
一旦唇を離したかと思えば、また塞がれて舌を絡ませてくる。
治くんは自分の身体全体を押し付けてくるように覆い被さっていた。
心臓の音が聴こえそうな程の、至近距離。
そして初めて感じる治くんの匂いや体温。
頭がぐらぐらする。
「……はぁっ」
「……北さんとも、こんなヤラシイキスしたん?」
唇が解放された時、自分の顔が酷く火照っているのが判った。
治くんの舌の感触も、その温度も。
耳元で囁いてくる、低い声の振動も。
感覚が残って離れない。
治くんの目を見たら……
気持ちを抑えられなくなりそうで……
病的な程の心臓の鼓動が、意志を揺るがす。