第17章 ラブシック・ハイ(後編)【宮治】
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部の用事で一緒に出掛けてから、治くんが休み時間にうちのクラスに来る頻度が増えた。
「なぁなぁ名前ちゃん。今度どっか遊び行かへん?」
そないに嬉しい事言うて……
勘違いさせへんで。
「ごめんね。土日も部活あんねん」
「なら、部活終わった後は?俺らかて部活やし」
それに……
信介くんとは別れてまだ2ヶ月位。
やっぱりまだ、気が咎めてまうよ。
「……色々、忙しくてね。ほんまにごめん」
あんまり見つめんといて。
心の中が、読まれてしまいそうやから……。
「アハハ、サムがフラれたぁ~。おもろ~」
「あぁ?何やそのアホ面。セクハラツムは、俺が名前ちゃんと話すと焦ってまうんですかぁ~?」
うちのクラスに来ては始まる宮兄弟の口論も、すっかりおなじみになった。
侑くんと言い争ってるうちに、昼休みの教室を抜け出してトイレに逃げる。
「……もぉっ……なんなんよ……」
鏡の前に立てば赤くなった自分の顔が嫌でも目に入り、それを造り出している心臓の速い鼓動を恨んだ。
胸をきゅっと押さえてから前髪を直して、持って行きようのない感情を何処かに仕舞い込む。
鏡に映った自分の赤い頬っぺたを見て、治くんの唇の暖かさを思い出す。
そこを指でそっとなぞると、一瞬彼の唇の温もりが甦った様な気がして恥ずかしくなったから、指をすぐに離した。
『夏ちゃん、考えすぎや。人の心はもっと、単純やで?
好きなら、好きだけでええんや。
好きやから無理にキスやエッチせなあかんって……そんな捉われすぎんで、ええんやで?』
治くんが言うてくれた言葉を思い出す。
私かて、そう思いたい。
けど、あの日の信介くんとの事が脳裏に焼き付いとる。
私だって機会があれば、いつかはそういう体験……する訳やし。
「行動で示したい」言うたのは、私やろ……?
すぐ好きになったらあかん。
心の準備が、しっかり整うまで。
それまで、私は恋をしたらあかん。
今度は好きな人とちゃんと向き合える様に。
もう傷付けたりしない様に。
恋は、それからや。