第17章 ラブシック・ハイ(後編)【宮治】
『あのっ……』
この月の下旬には、IH出場が決まっている男子バレー部。
その応援を依頼されとる私たち吹奏楽部。
これからも良い関係を築いていきたい。
只、そう思っていただけやったのに……
『吹奏楽部部長の苗字といいます。すぐIHが始まりますし、これから……仲良くしてください』
IH壮行会での主将挨拶を見てても、大会当日にチームをアップゾーンで支える姿を見てても。
そつなく、丁寧に、部を纏める彼に惹かれた。
恋に恋する心が、熱を持つ。
どんどん“好き”が、加速してった。
今思えば、同じ部長という立場におる人として、憧れに近いものだったかもしれない。
バレー部がIHで準優勝したその日の夜、私は信介くんに告白していた。
星空が綺麗な、蒸し暑い夏の夜。
一緒に宿泊した宿のエントランスでの事やった。
『……好き、なんです。北先輩の事』
そのまま付き合う事になった夏休みの終わり、たまたま家族が出払っていた信介くん家に誘われた。
初めてキスして……
段々とお互いに盛り上がって、そういう雰囲気になったけど結局……
『……っ!ごめんなさいっ……』
『名前、またにしよ。焦らんでええ』
拒んでしまった私に、何処までも優しい信介くん。
心が痛んだ。
それからはもう何も出来ひんかった。
信介くんの為に私が出来る事。
私は結局、自分自身の為に“別れる”っていう選択をした。
我が身可愛さに、嫌気が差した。
それでも学校内で偶然会うと、何事も無かった様に、信介くんは私に挨拶してくれた。
挨拶以外は「また付き合おう」だったり、「最近どうや?」すら言わへん。
辛くなってまう程の、信介くんの優しさ。
こないに優しい人の事、もう好きになったらあかん。
私の本能が、そう言うた。