第17章 ラブシック・ハイ(後編)【宮治】
*名前side*
人を好きになるキッカケは、日常にありふれている。
信介くんを好きになったのも、取るに足らない事やった。
もう他の男の子に……
治くんに、惹かれとる気がする。
私と信介くんとの事を侑くんが聴いてきた時は、正直あまり話したなかったのに。
不思議と、治くんには自分から話しとった。
話を聴いて欲しかった。
私を知って欲しかった。
信介くんと中途半端になってしまった事への苦悩を、そんな私の情けなさを。
こないだの放課後、オープンしたてのアイス屋さんで見た。
初めて笑てくれた、治くんの笑顔が忘れられない。
そして、頬っぺたに触れられた暖かい唇も。
簡単に人を好きになったらあかんて……
今の私はもう、解っとるやろ?
***
信介くんと出会ったのは、部長になったばかりの7月初めの事やった。
『後期、吹奏楽部の部費は資料記載の通りに変わります。他の部も各々、確認しといてください』
『えっ……』
初めて出た部長会議。
生徒会から言い渡された、急な部費削減。
支給される部費が削られれば、部員個人の負担が増える。
困ったなぁと思った時、会議に出ていた部長の1人が挙手をした。
『はい、男子バレー部。何かありました?』
『他の部の応援してくれとる善良な部の支給、減らすんか?』
何も言えんかった私を助けてくれた。
その3年生の男バレ部長さんが、信介くんやった。
『あの!助けていただいて、ありがとうごさいました!』
『いえ。それにまだ、結論出てないけど』
もう一度検討してくれるという方針を示した生徒会。
会議終了後、私は彼に声をかけた。
部費どうこうの結果よりも、彼の優しさが心に染みたから。
『吹奏楽は強豪やしな。努力して良い成績出してんのに、減らす理由ないやろ。全体予算足りてんねやし』
『……あ、ありがとうございます』
『それに、俺ら運動部の応援かていつもしてくれとんのに、こっちは何のお返しも出来ん。これくらいさせてや』
冷静やけど、少しだけ顔に喜色が表れていた信介くん。
そんな彼に、すぐ心を掴まれてしまった。