第16章 ラブシック・ハイ(前編)【宮治】
「……侑くんに聴かれて少し話したから……バレー部の人ならもう知っとるよね。私と、信介くんの事……」
「……おー」
北さんの名前が出てくると、ドキッとする。
もう北さんとは別れとる。
俺は自分に言い聴かせた。
「付き合ってる時ね、彼とそういう雰囲気になって……
私、初めてで怖くて……信介くんの事、拒んだんよ」
俺に対して赤裸々に語る名前ちゃん。
黙って耳を傾けた。
「すっごい罪悪感感じてもうて……何日経っても気まずくて……
気付けば、信介くんの顔……見れなくなってた」
下を向いて、か細い声で続ける名前ちゃん。
もしかして俺だけに話してくれとるんかな。
別れた経緯っちゅう重い話聴いてんのに、俺の胸はそんな期待で膨らむ。
「だから私から……別れて、って言うた。
アホやね。自分から告白しといて」
俺は安心した。
名前ちゃんが北さんに抱かれてない安心やなくて……
名前ちゃんが、すぐ流される様な子やないっちゅう安心。
「……まだ北さんの事、好きなん?」
トクントクンと鼓動を打つ、俺の心臓。
「……好きになったら、あかん人」
名前ちゃんが目を伏せると、長くて綺麗な睫毛が強調される。
「困る位に、優しい人。自分が駄目になってまう。こんな酷い私の事、許してくれとるみたいやし。
でも“あの時”は無理やった。よう……解らへんの」
「名前ちゃん、考えすぎや。人の心はもっと、単純やで?」
俺を見た、名前ちゃんの大きな目。
北さんに真剣に向けていたその眼差しを、俺に向けて欲しいと思った。
「“食う・食わへん”みたいに……“好き・好きやない”も、もっとシンプルや」
彼女を俺のものに、したくなった。
「好きなら、好きだけでええんや。
好きやから無理にキスやエッチせなあかんって……そんな捉われすぎんで、ええんやで?」