第16章 ラブシック・ハイ(前編)【宮治】
「あの、治くん。まだちょっと時間ある?」
「おー、あんで。次は何処行きましょか?お嬢さん」
「甘いもの、好き?」
今日のお礼やと言うて、名前ちゃんは最近オープンしたアイス屋に誘ってくれた。
思いがけない言葉に、心踊る。
「早よ練習行かんでええの?」
「治くんの親切心がすごく嬉しかったから……短時間やし、この位させて?」
「奢らせて」と何度もいう彼女をなだめて金は自分で払ったけど、名前ちゃんの優しさに胸が一杯になる。
店の窓際、カウンターのイートイン席に横に並んで座ると、ほんまの恋人同士のデートみたい。
「え。名前ちゃん、チョコミントなん?」
「美味しいよ?女子は結構好きな味」
「食った事ないわ。どれどれ」
「治くんのも美味しそうやね」
何の気もない、さりげない間接キス。
名前ちゃんは、俺が口付けたもん食うて、どう思とんのやろ。
荷物を持って歩き回った汗ばんだ身体と、胸んとこの熱さを心地よく冷やしてくれるアイスクリーム。
ミントの爽快感が口の中に広がって、とろけそうな脳内をクールダウンさせる。
ちょっとだけ冷静さを取り戻すと、ふと、気になってた事が俺の頭をよぎった。
「なぁ、名前ちゃん」
「ん?なぁに?」
「前、教室で“オトナ”な雑誌読んでたやろ?他の子と違て真剣に」
「あはは……気付いとった?」
「何で?そーゆー事にキョーミあるイメージ無いけど」
そんな名前ちゃんに、俺は興味津々。
タイミングがあれば、名前ちゃんに聴こうと思とった事やった。
「……好きになった人と、
今度はちゃんと向き合いたいって、思たから……」
偶然友達が持ってきたんやけどね、と、手元のアイスに落としてた視線を一度俺に向けた。