第16章 ラブシック・ハイ(前編)【宮治】
俺自身びっくりする位、腹ん中とは裏腹な綺麗事が飛び出る。
男なんて皆、“好き”の次の段階を求めてるに決まっとる。
カッコつけて言うたカッコ悪い綺麗事が、頭ん中でぐるぐる巡ってなんか恥ずかしい。
「けど、やっぱ……応えてあげたいよ。
“好き”やから、行動で示したい」
そう言うた名前ちゃんの顔は、いつになく聡明に見えた。
「……名前ちゃんて、ほんまにええ子やな」
「……え?」
名前ちゃんの頬っぺたにキス。
完全に“思わず”やった。
いつもとおんなじええ匂いが鼻先をかすめる。
髪の内側に手を差し込んでさらっと流すと、更にふわっと香る。
「……お、治くん?」
「なに?」
「……ここ、アイス付いてた……?」
普通女の子なら、赤くなって慌てる場面。
けどこの子は、キスした頬っぺたを指差しながら不可解な顔で俺に確認してくる。
「っははは!!出たー、天然爆弾!!」
「あっはは……治くんっ、初めて笑た……!!」
「名前ちゃんがむっちゃおもろいからやで!」
ほんまに気に入っとるよ……こういうとこ。
ほんまに好きやで……こういうとこ。
隣のクラスの教室に入った時、心のどっかで、あの子がおれば良いなって……
俺は絶対思とった。
やっぱし絶対に思とった。
名前ちゃん、俺……
名前ちゃんが、どうしょもなく好きみたいやわ。
アイスの残りを頬張ると、冷たい甘さが口の中に広がる。
このままの糖度で唇にキスしたら、俺の気持ちに気付いてくれんのかな?
俺の事、意識してくれんのかな?
学校に戻った後、やっぱ少し気になって、怒られんの覚悟で俺は体育館に足を運んだ。
「……ほ、ほんまにすんません。友達の……手伝いしとって……」
北さんの強烈な圧の前で、この日は出しゃばらずにボール拾いだけやった。
名前ちゃんが北さんの事をまだ好きかどうかも、結局判らずじまいやったのに。
それでも俺の心は、むっちゃ晴れやかだった。
始めっから俺は“恋の病”を患ってた事に、やっと気付けたから。
To be continued……