第16章 ラブシック・ハイ(前編)【宮治】
よう晴れて過ごしやすい11月。
身体が少し、熱い。
名前ちゃんの後ろ姿は華奢で、ブレザーの上から掴んだ腕は細くて折れてしまいそうな程やった。
身体の向きを変えて、俺と正面で向き合うた名前ちゃんが言う。
「治くん、もうすぐ春高やない……」
話しとる途中の彼女の唇に、人差し指を立ててくっ付ける。
少し赤くなった顔がまた可愛くて、俺は顔が勝手に綻びそうなのを我慢した。
「何でやろ……今は名前ちゃんと……一緒におりたいねん」
心臓がキュッと掴まれたみたいになって、胸の中心が熱くなる。
名前ちゃんが何言うても、俺の腹は決まっとった。
「絶対、邪魔せーへんから」
名前ちゃんは最初こそ困った顔をしとったが、いつになく押してくる俺に根負けした様で、目的地に向かって歩き始めた。
「今日、ちょっぴり暑いね」
「せやな。あ、買い物の荷物持つで?」
「ふふっ……ありがとう、治くん」
名前ちゃんは段々と笑顔を見せるようになってきて、嫌ではないって事は判った。
初めて名前ちゃんの隣を歩けば、2人の身長差でやっぱ女の子やな、って意識する。
「制服デートみたいやない?」
「治くんと私なんて……全っ然、釣り合わへんね」
「そんな事ないやろ。名前ちゃんめっちゃ可愛いで?ツム……侑も、よう言うとる」
名前ちゃんは、顔を赤くして俯いた。
困った事に、部活をサボった罪悪感は少しずつ薄れていった。
それ程に名前ちゃんと過ごすこの時間が、俺には新しくて楽しくて、幸せなんやと思った。
***
「治くん、ほんまにありがとうね」
銀行と印刷屋、最後にホームセンターを回った後には、両手一杯の荷物をぶら下げとった。
「気にすんなて。しかし、女の子1人でこれ全部持とうとしてたんはきっついなぁ」
「皆には練習に集中してもらいたいから」
改めてええ子やな、って思った。
ほんまはもっと、いつだって当たり前に隣を歩きたい。