第16章 ラブシック・ハイ(前編)【宮治】
「……ちょ!おまっ、サム!!どういう事やねんっ!!」
「知らんわ!!お前あの子と同じクラスやろ!?お前が聴いて来いや!!」
「ええーー、まじかよ。北さんに彼女いたとか……完璧すぎじゃん。隙なしじゃん」
「イケメンでモテそうやけど……まさか相手が苗字とは……びっくりやなぁ」
ツム、角名、銀とのヒソヒソ話じゃ、当然なんの収拾もつかんかった。
他の3年かて、俺らとおんなじ事しとったし。
破壊力抜群の爆弾を投下したまま涼しい顔で行ってもうた北さんの背中が、踊り場を曲がって見えなくなった。
「どないしよ。俺、北さんの前で『可愛い』とか言ってもうたわ……」
「元カノみたいだし、大丈夫じゃない……?」
ポカンと口を開けたツムに、角名がフォローを入れた。
彼女と同じクラスのツムが入手してきた話を、俺は後で聴いた。
“付き合うてたのは、2ヶ月程度”
“今はもう別れた”
判ったのは、それだけやった。
あの子はあんまし話したないみたいで、「気にはなるけど、これ以上は詮索せん」とツムは言うとった。
***
それから一週間くらい経って、俺は昼休みのツムのクラスに入った。
この日の朝練で北さんから預かった伝言をツムに伝える為やった……
……ようで、それだけやなかった。
心のどっかで、あの子が教室におればええなって……俺は思とった気がする。
「ツム、北さんから。『風邪、良うなったか?』やて」
「ん全っっ快やー!!身体鈍っとるでぇ!!」
「知っとるわ」
「お前は家でも一緒やからなっ!わざわざ言伝てにこんでも、お前から北さんに言うとけや!」
(あ、おった……)
何日か前に初めて近くで見て、綺麗な子やと思ったから。
俺自身、彼女に心が動いたんは確かやったから。
偶然を装ってまた見られた事が嬉しくて、気分が上がった。