第16章 ラブシック・ハイ(前編)【宮治】
いつも通りの運び。
けど北さんからは、いつも通りの正論パンチは返ってこーへんかった。
「……まぁ、見たくなってまう気持ちは解るわ。あないに足、出されてたらなぁ」
その場におった奴らは皆、目を丸くした。
俺とツムは驚いた顔を見合わせた。
ある意味では、男の気持ちを代表する正論ではあったけど、とても北さんから出た言葉とは思えへんかった。
「そういや北さん。名前と知り合いなんスか?挨拶しとりましたけど……」
「ああ」
ツムが質問した。
下の学年の女子と知り合いなら、同じ中学か、家が近所か……そんなもんかなと、俺は思とった。
「この前まで、付き合うてたからな」
表情を変えずに言うた北さんに、自分の耳を疑った全員が一階の階下で動きを止めた。
俺は一瞬、ここは何処なんや?って身体が宙に浮いたような感覚になって、北さんが言うた言葉を色んな漢字に変換して考え続けた。
「「えええええええ゛ーーーーっ!!??」」
言葉の意味を解読できた時には、腰を抜かしそうになるんやないかって程、その場におった全員が驚倒して叫んどった。
北さんに彼女がおったなんて3年含め誰も知らんかったし、本人もそないな素振りちっとも見せへんかったから。
「なんやバレー部!いま会議中や、静かにせえ!」
「すみません」
近くにある職員室の引き戸がガラッと開いて、北さんが頭を下げた。
「この話は終いや」
北さんは淡々と言うた。
けど、誰も納得してへんし、誰も何も聴けへんかった。
固まる俺らの横を追い越してった北さんが、何事も無かったかのように階段を登っていった。