第15章 あたりまえ【北信介】
「……俺、あれからずっと考えとった。名前が言うたこの言葉の意味」
「い、意味て……?」
最高潮の、胸の高鳴り。
それをなんとか我慢しながら信ちゃんの方を見てみると、私をしっかりと見てくれとった。
「あん時はな、『好き、て何言うとんねん。当たり前やろ』て思た」
真夏の夕方6時はまだ明るくて、街灯が点いて無くても信ちゃんが目を細めて優しく笑とるのはよう見えた。
「名前は俺を好きで、至極当然やと思とった。
わざわざ伝える必要なんて無いくらい。
俺かて名前を、ずっと当たり前に好きやったんやからなぁ」
言うた後に、ふっ、と小さく笑た信ちゃん。
頭がついていけんで、おんなじ言葉がぐるぐるしとった。
「ほな……『何言うとんねん』て流したんも……?」
「『何を今更』っちゅう意味や」
「私が昔から……信ちゃんの事好きなん気付いて」
「こないに近くにおって、判らん方がアホやわ」
「……っ!?リップクリームも、す、好きやから塗ってくれたん!!??」
「あんなん、高校生にもなって保護者感覚で出来るか」
つまりは昔から、信ちゃんとは両想いやったという事で……。
私の告白を「当たり前」と受け取る信ちゃん。
流石としか言えん、どっしり感……!!
「俺には『付き合う・付き合わん』『彼氏・彼女』の関係性はよう解らんし、それになりたいて思とる訳や無かった。
お互いの事、只『好き』ってだけで、俺は勝手に満足しとったんやな」
信ちゃんはまたニコッと笑た後、まだ薄く明るい夕空を見上げた。
大人になって表情が柔らかくなった信ちゃんに、改めてドキッとする。
「疎くて、ほんまにすまんな……何年もお前の気持ちに返事せんで。
名前の事、傷付けてもうた」
信ちゃんの手が私のに重なる。
小学校あがる前くらいの小さい頃、繋いだ事のある手やった。
今はちゃんと、男の手。
農具なんかでマメがいっぱい出来た手。
優しくて力強い、信ちゃんの手。
こうやって手ぇ繋いで、神社の縁日行ったよな……信ちゃん?