第15章 あたりまえ【北信介】
***
就職して初めてのお盆休みが来た。
今日は信ちゃんと、例の神社で開かれる縁日に行く約束をしとる。
初詣以外で誘われるのは初めてやし、他の理由もあってめっちゃフワフワしとる私。
それは連休直前の数日前、仕事の外回りで信ちゃんの田んぼを見に行った時やった。
ーーー
『今年はおてんとさんに恵まれて良かったなぁ、信ちゃん』
『稲、より青々としてきたやろ?』
綺麗な緑色の稲穂が風になびく。
柔らかく笑う信ちゃんの表情が印象的で、ほんまに嬉しそうに言うもんやからこっちも顔が綻んだ。
『あんな、名前』
『何?信ちゃん』
『神社の縁日、一緒に行かんか?』
仕事用のパンプスを履いている事を忘れて、農道で思いっきり跳ねて喜んだ。
信ちゃんはキャップをずらして、作業着の長袖で額の汗を拭いながら言った。
『そないに跳ねて……喜び方、ごついな』
昔よりニコニコと笑うようになった信ちゃんを見て、今、ほんまに好きな事が出来てんやなぁって安心する。
動きずらい制服のシャツとタイトスカートが破れそうな勢いで喜んだ。
じりじりと滲んで垂れてくる汗も気にならんかった。
『……でな、名前』
『ん?』
少し視線を落とした信ちゃんが続けた。
『浴衣、着んか?小さい頃みたいに』
なんやねん……それ。
……意識してまうやろ……!!
ーーー
「バァちゃーん!!帯、見てくれるー!?」
一階の和室におるバァちゃんの元へと、バタバタ階段を降りる。
「……あ」
階段を降りた先にある玄関には、ぴしっと綺麗に浴衣を着た信ちゃんの姿があった。
「遅刻やで、名前」