第15章 あたりまえ【北信介】
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一度フラれても、信ちゃんへの気持ちは変わらんかった。
次の日からも一緒に学校行って、当たり障りの無い会話をした。
信ちゃんはいつもと全然変わらなかったから、私も精一杯いつも通りに接した。
信ちゃんの優しさやって思た。
高校を卒業した信ちゃんは地元の大学の農学部へ進学、翌年にお隣の大阪にある大学へ進学した私は一人暮らしを始めた。
大学行ってた4年間、嫌な事とかあると信ちゃんの姿が見とうなって、帰省シーズン以外にもよう実家に帰ってた(距離も近いし)。
恋人では無い信ちゃんと会うんは、基本的にはお互いの実家で。
連絡とって2人だけで遊びに行くとかは、なんとなしに出来んかった。
ただ毎年、元旦だけは新年の挨拶がてら2人で一緒に初詣に行った。
それは年に一度のお楽しみになった。
小さい頃、一緒に縁日に行ってた近所の神社が、もっともっと特別な場所になった。
高2の冬に告白した事は、いつしか忘れていった。
信ちゃんと時々会える「今」が、めっちゃ幸せやったから。
「私、就職はコッチ戻って来るわ」
「おじさん、おばさん喜ぶなぁ」
一人っ子やし親の希望もあって、就職は地元にUターンした。
信ちゃんは農業に就いて、私は地元の農協に就職した。
Uターンするにあたって、職種は何でも良かった。
信ちゃんと恋愛になる事は諦めがついとった。
けど、仕事という大義名分のもと信ちゃんに会えるこの職業を無意識に選んどった。
まだ私、信ちゃんの事、大好き。
恋人になれなくても、嫁さんになれなくても……信ちゃんの隣におれるだけで良かった。
そのうち信ちゃんに恋人が出来たら、今の私と信ちゃんの関係、どうなってまうんやろな?