第15章 あたりまえ【北信介】
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私が信ちゃんを好きな理由は沢山あるけど、好きになったキッカケは小学3年生の時の事やった。
『名前って男みたいやんな!髪短いし、いっつもズボンやし、遅刻ギリやし!!』
『怪力超人め!!ランドセル黒く塗ったろか!?あはは!!』
ある日の下校中、男子にからかわれとった。
からかわれんのは、私が髪を伸ばしたりスカート履いたりせんからやって思っとった。
けど、こいつらの所為でそんなんに手を掛けるのが面倒で、「ほなそうしよう」とはならんかった。
仮に可愛いスカート履いて来たとして、可愛い髪型にして来たとして、今度は女子に「ぶりっ子や!」って因縁つけられる。
避けたいのは絶対的に女子からの方やから、たまにやって来る男子の方は流していた。
『……うっさいわ』
『ギャハハハ!!こえー!!目で殺られる!!』
只のビビリと言えばそうかもしれんが、それ以上に「超」が付く程のものぐさでズボラと言った方がしっくりくる。
高校に入ってからは友達に恵まれて大分マシになったが、昔はとにかく面倒事から避けて生活しとった。
体育が得意やったけど、目立ち過ぎん様に適度に手を抜いた。
今とは違うて、他人にも興味が持てへんかった。
『何しとん?』
『……信ちゃん』
『げっ!4年の……』
後ろから現れた信ちゃんは、表情を変えずに淡々と言った。
『お前ら。名前が何で言い返さへんか、解るか?』
『『……』』
やかましいやんちゃ坊主共でも黙る、信ちゃんが醸し出す気配が空気をピリッと締めた。
『言い返しても、誰も得せえへんからや』
そん時の事は、今でも鮮明に憶えとる。
『新しい火種は、新しい争いになるだけで……名前は面倒な争いはしたないんや』
『……は?ひ、ひだ……?』
『名前は普段はアホやけど、実は理にかなった事ちゃんと考えてんねん』
信ちゃんが私の中にストンと落ちてきた瞬間。
只の幼馴染みやと思とった信ちゃんが、私の一番の理解者になった瞬間やった。