第15章 あたりまえ【北信介】
「いくら名前が色気ゼロの貧乳でも、『信ちゃんの好きな女の子のタイプ教えて教えてぇ?』って上目遣いすれば、さすがの北さんかて黙ってへんやろ!!」
「侑、一言余計や」
調子に乗って声色を使い始めた侑を銀島くんが制止する。
2人とも勝手に盛り上がっとるやん。
「名前!判ったら俺にも教えて!」
「俺もめっちゃ興味はあんねんけど、知ってはいけん様な気ぃするわ……!」
「なんやそれ」
あかん。
2人とも……突っ走り過ぎやて……
……他人事や思て……。
「……はっ、恥ずかしくてそんなん出来るかぁー!!!!
だって、だって……信ちゃんは……小っさい頃からずっと近くにおる、お兄ちゃん的存在でっ……!!」
思わず叫んだ自分の顔が、火照っているのがよう判る。
休み時間中の教室内で雑談していたクラスの皆が、一斉にこっちを向いた。
「……っ!」
顔から火が出そうや。
「……まぁ名前、聴けや」
静まり返ってしまった教室の空気を、ヘラヘラと笑う侑が破った。
「そないな北さんやからこそ、名前のコト『女子や』って意識してもらわなあかんやろ?」
「ぐぅ……!」
いつもはアホな侑の、もっともな正論。
「正論パンチ」は私の周りでは、信ちゃんだけが使いこなせる必殺技やと思てたわ。
「恥じらいなんか捨てんと……恋愛なんてでけへんぞ……?」
えらくドヤって言うた侑。
銀島くんも「おお!モテ男の名言やな!」って言いながら、隣で拍手しとる。
解るよ?
解るんやけど……。
「お前は対象外や」
とか言うてる信ちゃんの顔が想像ついてまう。
でも、大好きな信ちゃんの好きなタイプ。
ずっとずっと知りとうて堪らんかった……。
「不安なら色仕掛けのやり方、教えたろか?」
「侑、触んな」
後ろからそっと肩に絡めてきた侑の腕を振りほどいて、私は自身を奮い立たせた。
こうなったら意地みしたる。
信ちゃんはきっと、こんなウジウジしとる奴は嫌いや。
嫌われたく無ければ、私は変わらなあかん。