第14章 レインドロップス【澤村・及川】
*澤村side*
進路指導室でのあの日以来、名前からは避けられていたが、誤って押してしまった非常ベルが好機になって名前への連絡手段を手に入れた。
試合中はかなり集中していて、名前が観に来てくれていたか、いないかも分からなかった。
来てくれてたら良いな、なんて、淡い期待がよぎる。
「忘れ物無いようになー」
「「うぃーす」」
和久南戦と青城戦を続けて行っていた今日。
疲れた身体をどうにか動かして、飛んで行きそうな意識を繋ぎ止めて荷物をまとめる。
制服姿の女子が2人、こっちへ近付いて来ているのが何となく見えた。
段々と近付いてくる待ちかねたその顔を見た時、この疲れが吹っ飛ぶんじゃないかって位に心臓が高鳴った。
「皆、お疲れ様です!」
名前は頬を上気させて、吹っ切れた様な清々しい笑顔を見せた。
「「あ、あざーっす!」」
「あと一勝だね。明日も応援させてね!」
名前のこの笑顔が、俺は見たかったんだ。
ボンヤリと名前の顔を眺めて実感する。
「って、澤村!顔どうしたの!?」
和久南戦での怪我に気付いた名前が心配そうに眉を下げる。
「前の試合でちょっとな。むしろ怪我して休んだお陰で、青城戦ではボールがよく見えたよ」
顔を見合わせて笑い合った。
久しぶりにマトモに話した名前とは、何週間かの空白という気まずさは全く感じなかった。
好きな人との距離の近さに、改めて心臓が速まる。
「……じゃあー、私そろそろ帰るねー。あ、荷物運ぶの手伝おっか?」
「え!あ、いや大丈夫だって!重いし」
「やーるー!!」
スガと名前の友達が、押し問答をしつつもヒソヒソ相談しているのが見えた。
きっと俺と名前に気を遣おうって事だろうな。
「大地ー。先行ってるけど、先生たち待ってるから早くなー!」
「おー」
ニヤケ面のスガは言うと、俺と名前だけを置いて、廊下の隅に雑然と置かれた荷物をまとめて館外へと出た。