第14章 レインドロップス【澤村・及川】
*及川side*
試合が終わった後、撤収作業に追われる。
下級生の皆に指示出しして、クソムカつく牛島と話した。
「……名前ちゃん」
牛島との話が終わったのを見計らったかの様に、俺が一番大好きな子が目の前に現れた。
「試合来てくれてありがとね。カッコ悪いトコ見せちゃったね」
「そんな事、無い」
名前ちゃんは下を向いて、手をギュッと握っていた。
「……及川、頑張ってた。他の人たちも。すごく……」
少し泣きそうに震える名前ちゃんを、思わず抱き締める。
「すごく、カッコ良かったよ……!」
名前ちゃんの体温が俺に伝わる。
「……澤村クンのトコ、行くんだよね?」
俺の腕に包まれながら、名前ちゃんは無言でこくりと頷いた。
俺たちは烏野に負けた。
だから俺の名前ちゃんへの気持ちは、今までと変わらずに仕舞っていなければならない。
けどやっぱり、抑えられないんだよ。
中学の時に想いを伝えられなかった事を、後悔している俺には。
名前ちゃんの事が、世界で一番大好きな事を……。
「俺……名前ちゃんの事、本気で好きだったよ」
自分勝手に賭けといて、俺って本当にバカだよ。
「……ありがとう、及川」
名前ちゃんは俺の顔をしっかり見てくれた。
フラれる事、ここで名前ちゃんとは終わる事。
全部分かっているのに、どうしてだろう。
名前ちゃんの顔を見ているだけで、俺の顔は笑顔に変わる。
「今までありがとう。ごめんね」
俺の腕の中から出た名前ちゃんは、背中を向けて去った。
「セフレを止めよう」って直接言わなかったのは、俺の自尊心を傷付けない為なんだよね?
「ありがとう」って2回言ってくれたのは、
『私を好きになってくれて、ありがとう』
『寂しい私を慰めてくれて、ありがとう』
……なんだよね?
最後まで全部全部、俺が好きな名前ちゃんだった。
ホント言うとその綺麗な髪を撫でて、潤った唇にキスしたかった。
正真正銘、最後のキス。
その一回きりで良かった。
本当に俺って……カッコ悪い。