第14章 レインドロップス【澤村・及川】
*名前side*
あれから及川からの連絡は無く、10月は下旬に入った。
澤村からも、特に声は掛けられなかった。
ただ廊下で偶然、澤村の姿を見たり声を聴いたりすると、心が痛くなった。
遠目で見る澤村は、いつも通りだった。
ある日、誰かが誤って非常ベルを鳴らしてしまい、昼休み中の廊下は騒ぎになっていた。
「ベルうっさ!男子って本当バカ」
丁度、ミオとトイレにいく為に廊下に出たタイミングだった。
傍目でそれを見た彼女が言った。
「ね」
私は適当な返事で合わせた。
騒ぎの当事者が澤村だと知ったのは、その瞬間だった。
「ごめん。私トイレ、後にする」
「えー?」
人集りの側を通った瞬間、中心にいた澤村と目が合ってしまった様な気がして、慌てて教室に戻った。
あれから、あの日から、廊下で澤村とすれ違った事は何度かあった。
なのに……何でだろう。
今は何だか、無理だ。
廊下で教頭に怒られる澤村が、可愛かったから。
近くを通れば、顔が勝手に綻んでしまいそうだったから。
もう一度目が合ったら、彼に……
また抱き締めて欲しいって、思ってしまいそうだったから……。
「なんかー、バスケ部の主将とバレー部の澤村が購買のパン争奪戦してて押しちゃったらしーよ」
トイレから戻ったミオから聴いた話に、思った通り、私は顔が綻んでしまった。
「……ははっ!バカだねー」
「ジリリリリ」とけたたましく鳴り響いていた非常ベルがようやく静かになり、同時に私の心も平常に戻った。
***
10月25日。
バレー部は試合があるから公欠、という事実を、一通のメールで知った。
「……うそ」
休み時間にスマホを見た私は、アドレスを教えた覚えの無い人からのメールに驚愕した。