第14章 レインドロップス【澤村・及川】
「軽蔑したでしょ?」
本当に私……
可愛くない……。
何もかも虚しくなって、惨めになって、部屋を出ようとした時だった。
「名前!待てって!!」
澤村に、腕を掴まれた。
「……ごめん、彼と約束あるから……」
腕を掴む澤村の力が、強くなった。
「行くなよ!!」
澤村の太い声が刺さる。
彼を見ると、眉をひそめ目を大きく開いて歯を食い縛り、悔しそうな顔をしていた。
腕を引っ張られて、また腕の中にきつく収められる。
澤村の心臓はとても速くて、私のと同じ位の速度だった。
「……行くなっ……名前」
「……離して……苦しいよ」
どうして、こんなに私の事……気に掛けてくれるの?
私、最低な事してるんだよ……?
「……名前が、さっき言った事が事実でも……」
一層、腕に力がこもる。
「俺は名前が好きだよ。
それに、お前の心はまだ晴れてないだろ……?」
何も言えなくて、焦点の合わない目で澤村の学ランのボタンを見ていた。
少しずつ彼の腕の力が緩まってきて、自然と身体を離した。
「……澤村……ごめんね」
澤村と結ばれれば気持ちが晴れるんじゃないかって、ずっと思ってた。
でも実際、澤村からの気持ちを受け取って……
私は「キズモノ」って事実は変えようが無くて、澤村とは結ばれる資格なんか無いんだって感じただけだった。
澤村に対しても、及川に対しても、罪悪感は消せない。
犯した罪は、雨では洗い流せない。
私は進路指導室を出た。
涙が出そうになるのを必死でこらえた。
帰り道、歩きながらやっとの想いで一通のメッセージを送った。
『今日は行けない』と、及川宛に。