第14章 レインドロップス【澤村・及川】
「まぁ……気に入ってはいるな。美人だし、話してて落ち着くし、軽薄じゃないから信用もしてる」
「だろ?『やべぇ、大っ好き』って悶える事だけが恋愛感情じゃねぇんだよ」
「……何だよ、それ……」
黒尾が低い声で続けた。
「そんな一言残していく子なら、きっとお前の事待ってんじゃねぇかな……と、俺は思う」
苗字……女子は大人だ。
男よりも早足で階段を登っていく彼女は、男の俺なんか必要としていないと思っていた。
実際にそうなのかもしれない。
でも、俺は苗字のあの作り笑いを見て……何もしないのか?
俺は、何も出来ないのか……?
苗字の、為に。
「髪撫でながら話聴いてやって、『好き』って言いながらチューしてよぉ。で、誰も居なくなった部室で……」
「……オイオイオイちょっと待て!!何だそれ、お前の体験かよ!?軽っ!!黒尾、軽っ!!」
「なーにコーフンしちゃってんですか??俺、『部室で』としか言ってないんですケドォ~??」
「ぐっ……!」
「あらら、顔真っ赤だよ?なに想像してんの?サームラさんのエッチー」
「うっせ!!」
黒尾が急に軟派なキャラでおちゃらけてきたが、俺をイジりながらも勇気付けてくれてるんだって判った。
このタイミングで合宿に来られて良かったって、心から思った。
「でも、主将が色恋沙汰に現を抜かして予選敗退なんかしないで下さいよ、烏野さん?」
「……絶対に生き残るから大丈夫ですよ、音駒さん?」
「ヘイヘイヘーイ!!何の話!?主将トーク!?俺も混ぜてー!!」
「木兎ウルセー」
俺は、苗字が心配だ。
俺が苗字の心配事を払拭出来るかは分からないが……彼女の、壊れてしまいそうなあんな顔はもう見たくない。
俺は苗字が好きだ。
だから笑っていて欲しい。
作り笑いじゃなくて、心から。
今度は俺が苗字を、安心させてあげる番なんだ。