第14章 レインドロップス【澤村・及川】
*澤村side*
今月1日の月曜日、俺は苗字との事がどうにも忘れられなかった。
その週末に行われた、春高予選前最後の東京での合宿。
女子の事に疎い俺は一番身近なスガと旭も女子に疎い事を悟って、この機会に黒尾に相談を持ち掛けた。
「『声掛けてくれて、ありがと』だぁ!?そんなん、おめぇ……気があるからに決まってんじゃねーか!?何だ、自慢か!?部活しろコノヤロー!!」
「……何で俺、怒られてんの……?」
「いーなー、サームラさん!」
体育館の隅っこ、床に座って休憩中。
スガや旭からは出てこなかったきっぱりとした答えが、隣に座る奴の口から飛び出した。
「……まぁ、その苗字って子が何かを抱えてるかどうかは判んねぇけどさ」
「んー……」
「心配な事があんなら、シンプルに優しく話聴いてやればいんでねぇの?本人が言いたくねぇ事なら言わねぇだろうし」
苗字は俺に気がある……かもしれない。
顔立ちが良くて、凛とした雰囲気を醸し出す苗字。
綺麗だな、と思う事は確かに今までに何度かあった。
実は男連中に、密かに人気がある事も知っている。
「お前のその『興味』は、立派な『好意』なんじゃねぇの?サームラさん」
俺の顔を見てニヤリと笑う黒尾。
苗字の綺麗な顔を思い出していたその時、黒尾のニヤケ面も相まって、急速に苗字への意識が高まってくる。
「俺も苗字の事……好きって事、か……?」
「そーそー。このニブチンが」
夜の自主練中とはいえ、合宿中の体育館内。
場所をわきまえる余裕が無くなった俺の頬が、少しずつ熱を持ち始めた。