第14章 レインドロップス【澤村・及川】
及川とは、同じ北川第一中学出身である私。
その及川と、6月に行われたバレー部のIH予選で再会した。
澤村の、高校最後の大会。
仙台市体育館へ応援に行った私は、及川率いる青葉城西にうちのバレー部が惜敗するのを観ていた。
澤村になんて言葉を掛けよう、そんな事を二階席で考えていた時だった。
『苗字ちゃんだよね?』
試合を終えたばかりの及川に、声を掛けられた。
中学の頃から女の子には困らず、人気者だった及川。
地味な私なんかを覚えていた事に、少し驚いた。
『烏野、残念だったね。強かったよ』
『……そうだね』
『主将クンにさ、よろしく言っといてよ』
『……何で澤村と私が友達だって判るの?』
『だって苗字ちゃん、試合中ずーっと主将クンの事、見てたよ?』
何となく弱味を握られてしまった様な関係性になり、連絡先を交換してくれと言われて従った。
数日後には「セフレでも良いから付き合って」と連絡が来て、戸惑いながらも一朝一夕で事態は進んでいった。
「……ねぇ、澤村クンの事?悩んでるなら、マジで相談乗ったげるよ?」
ラブホのベッドに押し倒しながら耳元で吐く台詞では無いと思いながらも、及川の手は進んでいく。
「やだ……今は澤村の話、止めてよっ」
「良い子だね……名前ちゃん。俺とスる時は、他の男の話……しないんだ?」
私自身、セフレなんていう立ち位置の人を持ったのは勿論初めてで、「情事を愉しむだけの関係」という漠然とした知識しか無かった。
及川は中学の同級生だからなのだろうか。
私が思い抱いていた事務的な身体の関係より、少し暖かい態度を取る。
彼の触り方はいつも、私を慈しむ様な優しさを含んでいた。
それでも抱かれてしまった事実は目の前にあって、私の罪は消えない。
今日が雨で良かった。
リセットして、綺麗になる気がするから。