第13章 ジーザス!【黒尾鉄朗】
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「……クロ、見てたの……?」
「廊下から見ちまった。偶然、忘れモン取りに戻った時」
「……」
「……悪い。驚いたよな?」
「……『なんてこった』って感じ」
みっともない所をクロに見られていた事を知って、惨めになった。
きっとこれから「付き合おう」って言われて、またキスされて流されて……。
でも、私はしばらく恋人は作れそうもない。
付き合った所で、幸せにしてあげる自信がない。
「『なんてこった』はまだこれからだヨ?名前チャン」
「……?」
随分と高い位置にあるクロの目を見上げると、彼は目を細めながら鼻を私のにくっつけた。
「この話……まだ続きがあるんだぜ?」
トクン、トクン……と、心臓が少しずつ速くなっていく。
「名前がココから出てった後さ。俺、アイツに言ってやったんだよね」
ーーー
『お前……ナニしてんだよ』
『なっ、黒尾!見てたのかよ!?』
『……名前がテメーの事、どんだけ大切にしてたのか知ってんのか……?』
『あ?女なんて、サせてくれりゃあ何でも良いだろ。お前だってそうじゃねーの?』
『……名前は……、ピッチャーのテメーが肩や肘やんねぇように、球種ごとに投球数記録して毎日きちんと管理してた。
負担のかからないフォームとか練習法とか図書館でいっつも調べてた。俺にも食事とかフィジカル面とかよく相談してくる』
『だ、だから何だよ。マネとして当然の事だ!つーかお前には関係ねーだろ!!』
『……オイ』
『あ?』
『……テメーがそれ以上、名前を語るんじゃねーよ。クソヤロー』
ーーー
「……って、俺が凄んでチョーット胸ぐら掴んだらすぐ逃げ出しちゃったんだよネ。
バレー以外にもこのタッパ、活かせるよな」
鼻先をくっ付けたまま、クロは優しく微笑んだ。