第13章 ジーザス!【黒尾鉄朗】
『じゃあヤらせろよ』
『きゃ……!』
急に強く腕を掴まれて、床に押し倒された。
一瞬何が起こったのか分からなくなって、引きちぎれんばかりにセーラー服の前ボタンを外されてやっと頭がクリアになった。
『学校じゃヤダっ!!』
『うっせーなー』
『んんっ!!』
声を出せば口を塞がれた。
それは到底、キスなんて呼べるものでは無かった。
私の言葉だけではなくて、気持ちまでかき消す様な乱暴な口付け。
今まで触れてきた優しい唇、重ねてきた温かな身体とは全く異なって……
優しかった筈の彼が、別人になっていた。
身体の方は、確かにご無沙汰だった。
思うように会える時間自体が減っていた。
でも私は、決して彼から気持ちが離れた訳では無かった。
『ヤらせてくんなきゃ、お前と付き合ってるメリットなんかねーだろ』
その冷たい言葉で、我に返った。
彼がそんな風に思っていた事、私の気持ちが彼に伝わっていなかった事。
私はモノなの……?
あなたの身体を悦ばせるだけの人形?
メリットがあるから、付き合ってたの?
デメリットがあるから、別れるの?
『……やめてよっ!!』
怒りが沸き上がってきて、思いっきり押し返して身体を剥がした。
その勢いで直ぐ様、私はこの空き教室を飛び出した。
今まではこんな事、無かったのに。
愛し合っていると思ってたのに。
───神様。
私の何がいけなかったのでしょうか……?
私が魅力的じゃないから?
彼を悦ばせる事が出来なかったから?
もっともっと沢山、抱かれれば良かったの?
従順で物言わぬ、彼の人形になれば良かったの?
悲しいやら情けないやら悔しいやら。
でも不思議と、涙は出てこなかった。
そして昨日、数日間音沙汰が無かった彼に私から別れを伝えた。
メール一通で解消した恋人関係。
虚しくなって、やっと涙が出た。
何故か少し安堵する自分も居て……
自己嫌悪して、沢山泣いた。