第2章 彼女の勘違い【澤村大地】
苗字はゆっくりと語り始める。
「……失恋……したから」
思いもしなかった返事に、俺は目を丸くした。
「その、好きな人には彼女がいるって噂で聞いて……これから受験なのに、勉強に身が入らなくなっちゃってさ。寝不足もそれで。だから……自分をリセットしたの」
「……苗字」
「前から、いつか空けたいなって思ってたしさ」
辛い事を自分1人で乗り越えようとする苗字が、俺は少し心配になった。
「これからは、勉強頑張る!」
「おう!俺も頑張らないとな」
「ふふっ。ありがと」
「ん?」
「澤村くんのお陰で元気出た」
「そっか、良かったよ」
そしてもうひとつ。
苗字は誰に失恋したのか。
苗字は想いを伝えたのか。
妙に気になって、頭をぐるぐる回っていた。
それが聞けないまま苗字の家に到着し、それからは2人きりになることが無く、確かめる機会を失った。