第12章 男の子、女の子【菅原孝支】
菅原がきょとんとした顔でこっちを見つめてくる。
「……ははははっ!!」
「え!えっ!?」
笑い飛ばされ、何か失言をしてしまったか不安に刈られる。
「お前から『男の子』なんて言われる日が来るなんてな!」
ワシワシと頭を雑に撫でられる。
まるで父親が息子の頭を撫でるような豪快さだ。
「名前はさ、すっげぇ可愛い女の子だな」
「……はぁっ!?」
「褒めてんのに何だよその反応」
「だ、だって今まで男っぽいって……!」
「そ。男っぽい」
何を言いたいのかイマイチ分からないと難しい顔をしていた私に、すぐに彼から補足が入った。
「男っぽい名前が、すっげぇ可愛い女の子ってコト!
だから……今まで通りの名前でいろよな」
菅原へアプローチ出来なかった自分自身のコンプレックスが、こんな形で花開いたのだ。
「なんで急に化粧なんてして来たんだよ?」
俺に振り向いて欲しかった?とじっと見つめられると、また吸い込まそうな程の大きな目にドキッとする。
「……昨日、告られたって……聞いて」
「大地だな?ったく……」
菅原は息をひとつつくと、私の手を握ってきた。
ベンチに置いたままで握られた手が汗ばむ。
「俺は名前が一番好き!ずっと前からな!今まで素直に言えなくてごめん、焦らせてごめん!」
まっすぐな告白に、胸がきゅっと狭くなる。
ずっとずっと、こんな事言われたら良いな、って思ってた。
菅原の少し高くて優しい声で、言われたら良いな、ってずっと……
「今日も腹、痛てぇの?」
「うわわっ!!」
菅原がいきなり私の下腹部を擦ってきた。
急激な展開で、自分自身でも生理中である事、そして鈍痛を忘れていた。
しかし急に女子のお腹に触れてくるなんて……大胆にも程がある。
緊張から身体が強ばる。
「名前もちゃんと女の子なんだな~。うんうん」
たった今まで流れていた甘い空気が、その一言で綺麗に吹き飛んだ。