第12章 男の子、女の子【菅原孝支】
「でも……すっげぇ大切なヤツ……」
しっかり開いた真剣な目で、自信たっぷりに言う。
「大切」って……そんなの。
そんな事、軽々しく……言うな……。
勘違い、しちゃうじゃん……。
***
田中くんと西谷くんは何かを察したのか、私の為にカツサンドを買ってきてくれた。
お代も受け取ってもらえず、結局は2人の好意に甘える形になった。
「良かったな、カツサンド」
「う、うん……」
私は坂ノ下商店前の青いベンチに、菅原と2人で座っていた。
小さなベンチに2人で並んで座れば、自然と距離が狭まってしまう。
それだけでもドキドキしてしまうのに、どうしてだろう……菅原は私の顔を見つめてくる。
止まらない緊張……止まらない彼への想い。
このままだと私の方から襲ってしまいそう……否、そんな度胸は私には無い。
「大地たちに聞いた。名前は此処だって」
「そ、そう。……あの、菅原……さん?」
「んー?」
「……な、何か……?」
いつの間にか距離を詰められていて、近くで見つめられていて、恥ずかしくてたまらない。
顔をあげて彼に問うと、目がバチッと合う。
でも逸らしたら、気付かれそうで……。
目で追いかけて、また捕らわれそうで……。
菅原の瞳の中に、身動きの取れない私が映った。
その瞬間。
菅原に、吸い込まれた。
「俺は、化粧してない名前の方が好き」
彼の声が聞こえた直後、私の視界が覆われた。
唇に当たる、柔らかい感触と熱。
「……っ!!??」
キスされている事に気付いて身体を離した時には既に、何秒間も唇を重ねていた後だった。
「気付くの遅いよな、名前って」
「だ、だ……って!ええっ!?」
「キスしてる事も、俺の気持ちも」
キスで伝えられた気持ち。
思ってもみないタイミングで、知ってしまった菅原の気持ち。
私が恋愛音痴だから……痺れを切らしたのか?
何を言えばいいか、分からなかった。
「皆……他の男から……名前がチヤホヤされるのは面白くねぇよ」