第12章 男の子、女の子【菅原孝支】
休み時間には信じ難い事に、他クラスの男子までもが私を覗きに来た。
きっとうちのクラスの誰かが漏らしたのだろう。
いつもより息苦しさを感じる。
学校で注目を浴びる事は勿論、メイクし慣れていないこのお肌もだ。
菅原とは何も喋らなかった。
こんな日は、初めてだった。
授業なんて上の空で、ぼーっとしているのに昼休みはあっという間に来た。
頭の中は、菅原で一杯だった。
昼休みに1人で坂ノ下商店へ行くと、前日カツサンド争奪戦を繰り広げたバレー部2年2人組に会った。
「あっ!昨日のカツサンド先輩だぜ、ノヤさん!」
「今日は負けませんよ!!」
「昨日は負けたし殴られたけど……アレはアレで良き結果だったよな」
「昨日はピンク!だったよな!!」
つけられた変なあだ名やセクハラ発言を耳にしても、反応出来なかった。
「……なんか今日は、すげぇ華やかっスね!」
「つーか、めっちゃ似合ってます!!イメチェンですか!?」
「……どうも」
「昨日までの元気はどうしたんスか!?」
「カツサンド、終わっちゃいますよ!?」
坂ノ下商店に行くと顔を合わせるというだけの、名前すら知らない下級生にまで気を遣われる始末。
……私、何やってるんだろ……?
「おー!田中、西谷!」
急に後ろから聴こえてきた菅原の声。
気まずくて、後ろを振り向けないまま固まる。
知らない人のフリ、どうやるんだっけ……?
「あっ!スガさん!」
「ちわっす!!」
「ちっすー。今日もカツサンドかぁ?」
いつもと変わらない、優しい菅原の声。
後輩と喋るときは、こんな感じなんだ。
いかにも、頼りになる優しい先輩で……後輩に慕われそうな菅原。
眼中に無い私には、してくれない話し方。
「あ、コイツさ。俺の連れなんだよね」
突然だった。
聞かれてもないのに、急に後ろから私の腕を掴んでくる菅原。
「へっ……?」
「「え!?」」
驚いて菅原の顔を見ると、目を細めてニコニコと微笑んでいた。
「『連れ』って……か、彼女さんって事っスか!?」
「彼女ではねぇよ。同じクラスの女子」
あっさり否定。
……ほらやっぱり、私と「恋愛」になるのが嫌なんだ…… 。