第12章 男の子、女の子【菅原孝支】
教室に入ると、予想以上の皆の反応に驚いた。
女子からも男子からも好評で、ミオの才能を改めて思い知った。
顔のメイクだけでは無く、髪型までオシャレにスタイリングしてくれたお陰で、いつもとはかなり雰囲気が違う私。
「名前ちゃん!どうしたの!?超可愛い!!」
「お前ホントに苗字!?女子ってすげぇ!!」
「でしょ!?ホラ名前、やって良かったでしょ?アンタ、予想以上にメイク映えしたし!」
「ありがとう、ミオっ」
心なしか、メイクアップしていると言葉遣いも少しだけ丁寧になれる気がした。
人間、気の持ちようが大事である。
これで私……少しは、菅原に近付けるのかな……?
そんな事を思いながら、ドキドキして朝練終わりの菅原を待つ。
「はよーっす」
「あ!孝支、大地!!おはよー!!」
ミオの声で、心臓が跳ねる。
菅原がこっちに来る。
私を見る、緊張の瞬間。
「おお!見違えたな!似合ってんじゃん」
言葉をかけてくれたのは澤村だけだった。
「ちょっと、孝支~。ちゃんと名前の事、誉めてよ~。可愛いでしょ?」
「……あぁ、いんじゃね?」
ミオの気遣いも虚しく、抑揚の無い無機質な声が返ってくる。
私の方を見ようともしてくれない。
いつもより明らかによそよそしくて、妙に距離を取られていた。
私、可愛くなれないのかな……
菅原に見合う女に、なれないのかな……。
クラスメイトたちに囲まれてしまった手前、この喪失感を表に出す事すら出来なかった。
作り笑顔が、折角のメイクの質を落としていた。
澤村とミオだけが心配そうに見守る。
「苗字って、こんなに可愛かったんだな!いつも男っぽいから分かんなかった!」
「全然やりすぎて無いのに……雑誌とかに取材されちゃうんじゃねぇ!?」
男子たちがこっ恥ずかしい事を言い始める。
いつもは絶対に言われる事は無い、称賛の声。
でも、「嬉しい」とか「気持ちいい」とは思わなかった。
私はただ……
菅原からの言葉が欲しかった。
大好きな、菅原の笑顔が見たかった。