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【ハイキュー!!】短編集~Mint tea~

第11章 心の鍵を開けるひと【日向翔陽】




***


道を歩いていると、どこからか蚊取り線香の匂いが漂う。


私は結局、バレー部の練習を最後まで見学していった。
帰りは翔陽が、マンションまで送ってくれると言うからそれに甘えた。


私は制服、彼は半袖短パン。

夏の空気でしっとり汗ばんだ翔陽の腕が私に当たると、心臓が跳ねる。



「名前の気持ち聞けて、すげぇ嬉しかったよ。ありがとな」

「私こそ……ありがとね」


翔陽は通学に使っている自転車を片手で押しながら、もう片方の手を私と繋いでいてくれた。


翔陽の手も、私の手も、熱い。


気温だけのせいでは無い事は分かっていた。
小さな翔陽の手はイメージと違い、男らしく筋張っていた。



「自転車、押すの大変でしょ?両手使えば?」

「こうしてたい」


横目でチラッと彼を見ると、長い睫毛と優しく細めた目にドキッとする。


いつもとは違う表情。

いつもとは違う2人の空気。




「……なぁ、名前」

「なに?」



「……き、き……キス……しても良い?」



自転車を転がす音が止まって静かになった。


夕方の田舎道で足を止めて、翔陽の目を見て返事をする。



「キス、して。翔陽」



自転車のスタンドを立てる音の後、私の両肩に手を置き顔を近付けてくる。



「……っ」



いつも元気いっぱいで子供みたいな翔陽では無かった。

とても大人びたキスだった。


気を遣いながら、ゆっくりゆっくり重なる唇。

最初は触れていただけの筈が、物足りなそうに私の唇を優しく食んでくる。

お互いの柔らかさを確認するように、唇だけの触れ合いを続けた。

舌を入れてこないキスが、彼らしかった。



「……はぁ」

「ん」


私を心から大切に想ってくれている人のキス。


大人でも無い、子供でも無い彼からの、精一杯の愛情表現。



私とさほど変わりの無い身長のその小さな身体からは、優しくて頼れる大きな「男」を感じた。


「……名前、すき。だいすき」

「私も。翔陽が大好き」


唇を離した後に、白い歯を見せて笑い合う。

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