第11章 心の鍵を開けるひと【日向翔陽】
返答の無い私を、目の前で不思議そうに見つめる翔陽。
溢れ出る翔陽への「好き」の気持ち。
まだ昂ったままの私には、抑える事は出来なかった。
「……翔陽っ!!」
「うわっ!?びっくりした!!」
座っていたパイプ椅子から勢い良く立ち上がると、後ろにガシャンと倒れる音がした。
「翔陽の好きな所、今なら100個言えるっ!!」
「えっ!?」
バレー部全員が、手を止めてこちらに目を向ける。
目の前に佇む翔陽は、ひどく驚いた様子だった。
「翔陽、大っっ好き!!!!」
目の前に翔陽が居るにも関わらず、全員に聴こえる叫びの告白をしてしまった。
不思議と恥ずかしさは無かった。
この時の私は、心の内を叫ぶ事しか出来なかったのだ。
どうして翔陽が好きなのか、今までは分からなかった。
きっと、分からないままでも良かったのだと思う。
でも、私の目の前で高く跳ぶ翔陽を見て、なんて魅力的な人なんだと思った。
私も彼みたいに、高く跳んでみたいと思った。
翔陽にこの想いを伝えれば、高く跳べそうな気がした。
こんな自分を……変える事が出来る気がしたんだ。
うっすらと覚えているのは、翔陽以外のほぼ全員がニヤニヤしてこちらを見ていた事。
眼鏡の人だけは、ドン引きしてる顔だったかも。
翔陽は顔を真っ赤にして私を凝視していた。
そして私に続いて、彼も叫んだ。
「……お、おれもっ!!名前の事、大好きだっ!!」
翔陽の言葉に、胸がきゅっと狭くなった。
気持ちを伝えられたのは嬉しかったが、自分を解き放つ事が出来た満足感がとても大きかった。
自己満と言われたらそれまでだけど。
叫び終わってからは、もう周りの人たちは目に入らなかった。
翔陽と私の、2人だけの世界になったみたいだった。