第11章 心の鍵を開けるひと【日向翔陽】
こんなキスをしておいて、相変わらず可愛い笑顔を向けてくるのだから、本当に不思議な人だ。
翔陽の世界に、何度だって引き込まれてしまう。
翔陽と一緒に居るだけで、私は自然と笑顔になれる。
「超超超カッコ良かったよ、翔陽!」
「へへっ……サンキュー!」
翔陽が自転車のスタンドを蹴って、また歩き出す。
そして、忘れずに手を握ってくれる。
今度はお互いの指を絡めて、恋人繋ぎをした。
「おれ、初めて会った時から好きだったよ、名前の事。不器用だけど、思いやりがあって」
改めて好きと言われて、顔が火照った。
同年代に比べればあどけない翔陽だけど、
不意に真剣になるその表情はゾクッとする程に大人で……
これからどんどん、大人になっていく。
そんな翔陽を、ずっと隣で見ていたいと思った。
私も一緒に、大人になりたいと思った。
「お父さんとお母さんの事、辛くなったらいつでも言ってよ」
「うん」
「おれはさ、逆立ちしたって名前のお父さんの代わりになれるワケ無いけどさ……」
「?」
「名前の1番近くに居る男はおれだ。だから、たくさん甘えてよ」
そう言った翔陽は、私が勉強を教えていたあの時とは別人で……
頼もしくて、かっこよくて、最高の恋人だ。
「あのあとさ、先輩達に『キスくらいしてこい!』って言われた!はははっ!」
「翔陽って、可愛がられてるんだね!解るよ」
不意に訪れる沈黙。
「……」
「……」
待ってたよ、と言わんばかりに、唇を重ねてくる。
翔陽と私の長く延びた影も、1つに重なる。
鍵が閉まっていた私の心は開けられて、翔陽のものになった。
これからもっともっと深くまで、何度だって開けて欲しい。
私の鍵を持っているのは、あなただけなんだから。
「……ふっ、ははっ!!」
「やっと笑ったな!名前!!」
翔陽が、紐で結ばれた鍵を首から掛けている所を想像したら、小学生の鍵っ子みたいで可愛かったから笑った。
という事は、内緒にしておこう。
ずっと欲しかった翔陽とのハグを自らする。
翔陽が私の身体に腕を回してくれたと同時に、スタンドを立てていなかった自転車がガシャンと倒れる音が、いつまでも耳に残った。
END