第11章 心の鍵を開けるひと【日向翔陽】
急な展開に最初は焦ったが、すぐに目の前の光景に魅せられた。
「日向、ナイスキー!!」
「……わっ!」
翔陽がボールをバシンと叩く音が響く。
ボールが床に叩きつけられた瞬間、
その衝撃によって、向かい風を受けたかの様に髪や服がなびいたみたいだ。
翔陽は、まるで背中に羽があるみたいに見えて、高く高く跳んだ。
身体をバネみたいに「く」の字に曲げて、ボールの呼吸に合わせる。
他のバレー部員と比べると、身長はかなり低い。
小さな身体で頑張る翔陽。
生まれ持った身長(もの)をハンデとせず、
こんなにも皆を湧かせる。
対して、私はいつも生まれた環境のせいにしてきた。
高く高く跳ぶ翔陽を見て、目から涙が溢れ落ちた。
両親から離婚を告げられた夜に翔陽に抱いた、抱き締めて欲しいという想いが再び込み上げてくる。
私の側に居て、思いっきり抱き締めて欲しい……
その優しい肩に顔を乗せて、背中に腕を回したい……!
「頑張れ烏野ーーっ!!頑張れ翔陽ーーっ!!」
気付いた時、私は心のままに叫んでいた。
その場に居た全員が私を見るが、全く気にならなかった。
今まで、人目を気にしていたのが嘘の様だった。
何年もの間、人前で感情的になるのを抑えていた反動だったのだろうか。
私は全部忘れて、何も考えず、声を張り上げて応援した。
***
練習試合が終わり、相手校の人たちが帰り支度を始めた。
烏野メンバーと挨拶を交わして、体育館を出て行く。
「よーし。じゃあ、片付けー」
主将さんが指示を出すと、皆がテキパキと動き始める。
翔陽はモップがけをしながら、私に近付いて来た。
「名前、ありがとうな!名前の応援、すっげぇ嬉しかった!名前が居たからおれ、頑張れたよ!!」
この日は烏野の勝利に終わった。
試合中の翔陽の姿にまだ圧倒されていて、顔を近付けられると心臓が速まった。