第11章 心の鍵を開けるひと【日向翔陽】
「……大丈夫?」
「うん、もう大丈夫だよ。ありがとう」
約1ヶ月振りに会った翔陽は、少しだけ大人びて見えた。
メールで知り得た情報では、東京に遠征に行き、一次予選を勝ち抜き、東京でも学校でも家でも練習練習の日々だった。
鍛えられた身体でそう見えたか……或いは。
私が彼を、男として意識しているから。
私は翔陽に出会ったあの日から、恋だと気付く前から、この人の事を1日だって想わなかった日が無いのだ。
だから小さな小さな変化に、すぐに気が付く。
私と話す翔陽に気付いた先輩らしき坊主の人が、彼の肩を抱え込んで絡んで来た。
「なんだぁ、日向?彼女かぁ?クールビューティ系じゃねぇかぁ?」
「た、田中さん!!違うっスよ!!」
翔陽は坊主の人から何とか離れると、また別の先輩に話し掛けに向かう。
「キャプテン!この子、おれの友達なんスけど……練習試合、見学してもらっても良いですか!?」
「えっ?まあ、良いけど?」
「あざーっす!!」
キャプテンと呼ばれた黒髪短髪の人が、私をチラッと確認した。
再び翔陽は私の方に走って来た。
次の瞬間、助走して来た両手で肩を掴まれたもんだから、足をしっかり踏ん張らないと後ろに倒れてしまいそうだった。
掴んでくる翔陽の手は力強く、触れられた肩は熱くなる。
「名前っ!丁度これから他校と練習試合なんだ!観てってよ!!」
「練習試合?」
「そっ!超超超カッコ良いおれ、見せてやるから!!」
翔陽は私の手を引っ張り、体育館の中に入れようとする。
「私っ、ここで観てるから……!」
「ダメ!中に入って!座って!」
まるで子供の我が儘みたいに次々と言われる。
「はい名前、椅子出したから」
「谷地さん、ナイス!!」
翔陽はグッと親指を立てる。
座らないと好意を踏みにじるぞと、仁花が出してくれたパイプ椅子が私に訴えてくる。
根負けした私はバレー部しか居ない中、たった1人の部外者という気まずさを感じながらも、得点板の近くに置かれたパイプ椅子に腰掛けた。
武田先生や、何故か居る坂ノ下のお兄さんとか、他のバレー部の人達からの視線が……とてつもなく痛い。