第10章 とりかえばや(逆ハー版)第7章
私はヘラヘラするアントーニョさんを引っ張って居間に座らせ、包帯などを探した。
…結局どこにあるかわからなかったので、サラシを使うことにした。
「ここ以外に、怪我してるところはありますか?」
アントーニョさんの左腕の裂傷を布で抑えながら聞くと、
「親分…今胸が苦しいわ…」
と呟くように言った。
「…やっぱり病院に行ったほうがいいですよ。内臓のほうに傷があるのかもしれません」
救急のがいいかもしれない、と思い、電話をかけようと立ち上がると、アントーニョさんに手を握られた。
「俺、菊ちゃんに惚れてしまったみたいやねん。離れんといてや」
「…何を…
言ってるんですか!!!こっちはね、マジで心配してるってのに!!」
アントーニョさんの台詞に、私は結構、素でキレてしまった。
「はぁ…胸が苦しいわ…」
そして話を聞かない親分。
本当に内臓に傷があるんでないか?と心配性の私は心配になってきてしまった。
「落ち着いたら、ちゃんと病院行ったほうがいいですよ。
…とりあえず死ななくてよかったです」
そう言って、あまったサラシを巻いていると、不意に親分の顔が目の前に迫った。
え
と思う暇もなく、チュッと音を立てて唇に柔らかい感触を感じた。
「これは…挨拶なんやで、菊」
私の驚いた顔を見て、上目遣いでアントーニョさんは言った。
「わ、私の…
私の国では…握手さえ珍しいくらいで…」
驚きのあまりそれしか言えずに固まっていると、親分は私の腰に両腕を回し、
「じゃあ、親分が今からエスパーニャ流の挨拶、教えてあげるわ」
にこやかに微笑み、そのまま慣れたように再び私の唇に自分の唇を押し当てた。