第10章 とりかえばや(逆ハー版)第7章
時は一時間前にさかのぼる。
爽やかな風が吹く、気持ちの良い晴天。
勢い良く雨戸を開けて深呼吸すると、にわかに玄関のほうでけたたましい物音がした。
「な、何?何?」
私はサンダルをつっかけて外に飛び出すと、家のすぐ目の前に謎の物体が落ちていた。
「何コレ…飛行機?」
それにしては少し小さい。
「いや、パラグライダーやねん」
しゃがんで観察していると、すぐ背後で聞きなれない、少し低い声が聞こえた。
明るい日差しの射す中見上げると、
「…アントーニョ…さん?」
「やあ、菊ちゃん!初めましてやね」
そう言ってアントーニョさんは左手を差し出してきた。
握手だと思って、私も左手でその手を握ると、ぐいっと引き上げられた。
体に力も入っていなかった為、ポスッと親分の胸の中に顔をうずめた。
「「……」」
お互いに思いもよらぬ行動であったのか、しばらく無言で固まっていたが、私のが先に我に返った。
「ああ、すみません…。握手だと思いました…」
と、正直に言って離れようとしたが、なぜかぎゅっと抱きしめられて動けない。
「…あの…、動けません」
「あ~。菊ちゃんって、むっちゃいいにおいすんねんな…。たまらんわぁ…」
そう言ってアントーニョさんは私の首元に頭をうずめる。
いや…放せや…?
「アントーニョさん」
「感触も…なんか、女の子みたいやねんな」
「…!!!アントーニョさん!放してください!!!」
私は遠慮せず全力で引き剥がした。
アントーニョさんを引き剥がすことには成功したが、触れた左腕に妙な感触を感じた。
驚いて触った右手のひらを見つめると、べっとりと血のりが…
「…血…!!!」
短い悲鳴を上げてアントーニョさんを見ると、彼はヘラッと笑って言った。
「パラグライダー墜落して、怪我しとんねん!」
お前それ、早く言えや!!!!