第9章 エンドロール
春の風が吹き込んでくる見事な庭だった。
きっと、リヒちゃんとバッシュさん二人でお世話をしてきたんだろうな…。
そう思うと微笑ましい。
いつのまにか季節が変わっていた。
長いこと二人には会えなかったし、特にリヒちゃんは、本物の本田さんに変わっててびっくりしたんだろうな…と思うとまた涙がこみ上げてくる。
それに、ずっとこのまま一緒にいられるわけではないと思っている。
本田さんが夢をかなえて、こちらに帰ってきたら、私はもう二度と来られない、来たいと望んではいけないと思っている。
この瞬間、この刹那。
それはどれだけ大切な時間なのだろう。
そんなことを考えていたら、リヒちゃんが大きなお盆を抱えてティーセットを持ってきてくれた。
テーブルに下ろし、私に1セット、バッシュさんに1セット、リヒちゃんの席にも1セットを置き、さわやかな香りのする紅茶を注ぎ始めた。
なんて、穏やかで美しい時間なのだろう。
こんな幸せな瞬間が、今までの人生であったのだろうか。
注がれた紅茶を見て、思わず目を細めると、今まで無言だったバッシュさんが突然口を開いた。
「我輩と、結婚して欲しい」