第9章 エンドロール
会いたかった
声が聞きたかった
名も知らぬ、君をずっと思っていた
いざ君を見たら、身動きひとつ取れなくなった
「お兄様」
リヒの声で我に返り、一気に魔法が解かれたようだった。
「お姉さまにお茶をお出ししてもかまいませんか?」
「ああ、頼む…」
そういうと、リヒはキッチンへと消えた。
赤毛の娘…村崎と二人きりになった。
キッチンからはカチャカチャとお茶の準備をする音が聞こえる。
今日に限って、いつものように、彼女の目を見ることができない。
なぜなのか分からないが…。
そして、彼女もまた、我輩の目を見ない。
ただ静かに、みごとに咲き乱れる花壇を見つめていた。
どれくらいそうしていただろう。
我輩は窓を見つめている彼女をそっと見た。
ぼんやりとした様子で、どこか悲しげに、いつもに増してはかなげに見えた。
呼びなれぬ名を呼びかけてみようか、逡巡していると、リヒがティーセットを持ってやってきた。
彼女が、ティーカップに視線を映し、注がれる紅茶を見て目を細めた。
その刹那、その瞬間。
何が起こったのかわからない。ただ不思議で、その場の物、すべてが光り輝いて見えた。
「我輩と、結婚して欲しい」
この刹那、この瞬間。
ずっと昔から待っていたような気がした。