第7章 虎穴のワルツ編
「魅入られる?」
「ええ。実は『虎穴のワルツ』の前半は、男性を誘惑する曲なんです」
「ええええ!?誘惑…されちゃった感じなんですか?ローデさんは?」
「私は自分でこの曲は弾いたことがありましたから。途中までですけれど。
…何かあってはと護衛に連れてきたものの、返って不味いことになりましたね。
…そういえばあなたは無事なようですね?」
不思議そうにローデさんに見られてしまった。
ぎくぅう!
「あ、わ・私は、あ・あの、鈍感だからかもしれませんね!ははは!」
絶対本田さんこんなキャラじゃないとか思いつつも鈍感っぽく笑って見せた。
と、その時、
ガキィィンンン
私とローデさんの間に何かが振り下ろされ地面にぶつかって反響した。
私たちは反射的に間合いを取る。
どうやら親分が、引きずっていた斧を振り下ろしたようだ。
「アントーニョさん!!しっかりしてください…!!」
私はギルベルトさんに持たされた盾を構えながら親分に声をかけてみるけれども、彼のうつろな目には何も映らない。
「とにかく、今は演奏者を探し出して止めましょう!」
そう言ってローデさんは私の手を引いて奥へ奥へと走って行く。
親分は…ささった斧の回収に手間取っている。
演奏者は、私たちを殺すことになんのためらいもないだろう。
心臓がバクバク言って、頭がガンガンする。
ローデさんが力づよく握ってくれる左手だけが、私を走らせている。