第3章 ずぶ濡れ女
カッターが終了し、20歳を迎えてからの休養日にはこのBARに来ている。とは言え忙しい中で来れる日という言葉がつくが
階段を登り扉を開けるとカウンターとテーブルそして、壁に飾られたレコードがよく見える。いつも座る奥のカウンター席、いつもの酒を頼みタバコに、火をつける。しばらくタバコを吸っていると“今時”という言葉がよく似合う男女が入って来た。
2人とも帽子、マスク、メガネを身につけていて異質だが、どこか普通では無いオーラがある2人だと感じる。
しかし、今は流れる音楽と酒、そしてなによりもこの空間を楽しんでいた。
……
しばらく楽しみ帰ろうと思い席を立つ
「帰る‥」
「坂木、いつもありがとうな〜」
「おー。また来る」
カウンターの上に、お勘定を置く、すると揉めているであろう内容が聞こえ、その次にはパシャと水が飛び散る聞こえるはずのない音が周りの音を消し去る。
振り向くと、水をかけられた女が座っていて、男はすっと出口から出て行ってしまった。
その訳のわからない光景に周囲はひそひそと話をする。だが、女の方はよっぽど驚いたのかのか俯いたままピクリとも動かなかった
日頃のクセなのか、近づき声をかけてしまう。近くで見ると、この女の細さがよりわかった。
「大丈夫ですか?」
優しい声を意識して声をかけた。
その声に反応したのか女は顔を上げる‥この女、可愛い。
この言葉以外に選択肢が無い。
日々、乙女の事を見て来たが、兄という贔屓目が無くてもアイツは可愛い方だと思っていた。
‥が、目の前に居る女は“普通”ではなく“特別”な可愛さがある。
‥とはいえ、恥ずかしがり屋なのかすぐに下を向く。
「あっ‥だ、大丈夫です‥」
メガネのズレを気にしているのか俯きながら答えた
「でしたら良いんですが‥これ、使ってください」
今朝、プレスをかけたばかりのハンカチだ汚くないだろうと思いそれを渡す。
受け取る気配はなく、かと言ってまたポケットに戻すのも格好がつかない‥そう考えて机の上に置いた
「風邪、引きますよ?」
そう伝えて、出入り口である扉に手をかけ店を後にした。
時計を、見てもまだ点呼には余裕がある。そう思いながらタクシーに乗り込むみ扉が閉まる瞬間に先程のずぶ濡れ女が乗り込んで来た事に驚きを隠せなかった