第2章 初恋はいつもきみと
周りのひそひそ声が恥ずかしい‥。ただの痴話喧嘩に見えてれば良いけど、こんな事、芸能雑誌に載せられたら悪女としての噂が立ってしまうとか、そんなどうでも良い体裁のことを気にしていてびしょ濡れになった自分を気遣う事が出来なかった。
「大丈夫ですか?」
そう言われて、俯いていた顔を上げるとスカジャンを着た怖そうな顔つきの人が立っていた。
思わず顔を上げてしまった事で私とバレてしまったらどうしようと、すぐに下を向く。ずり落ちそうになったメガネをかけ直す
「あっ‥だ、大丈夫です‥」
「でしたら良いんですが‥これ、使ってください」
差し出されたハンカチはピシッとアイロンがかけられていてシワひとつない綺麗な物だった。
こんな濡れた私を拭くには少し勿体無い綺麗さで受け取るのを躊躇してしまう。
「風邪、引きますよ?」
そう言って彼はハンカチを机の上に置いて出口に向かって歩き始めた。
その姿をみて、私は慌てて机にお札を置きバーテンでもあるマスターに声をかけた
「お釣りは騒ぎを起こしてしまった分で‥ごめんなさい‥また来ます!」
そう言うと、走って彼を追いかけた。階段を降りながら帽子を被りメガネとマスクをする。背は高い方では無いけれど目立つ格好で後ろ姿をすぐに見つけることが出来た。タクシーに乗り込もうとする彼を追いかけて、扉が閉まる前になんとか体を車内に入れることに成功したした。
隣に、びしょ濡れ女が来た事で彼は驚いたのか目を見開いた。